英語学習の習慣化|意志ではなく仕組みで続ける5つの手順
Summary
習慣化でやることは、やる気を高めることではありません。①いつやるかを引き金で決める ②忙しい日の最低ラインを決める ③記録する ④環境から邪魔を減らす ⑤途切れたときの戻り方を決めておく、の5つです。いずれも行動変容の研究で扱われてきたもので、英語学習にもそのまま当てはめられます。
「今度こそ続けよう」と決めて、3日でやめる。英語学習でいちばんよく起きるのはこれです。
このとき手を入れたくなるのは気持ちのほうです。目標を紙に書く、SNSで宣言する、高い教材を買う。どれも最初の数日は効きますが、効果が切れたときに何も残りません。
この記事では、気持ちではなく形のほうを変える手順を5つに分けて書きます。行動変容の研究で扱われてきた枠組みに沿っていて、出典も示します。
なぜ「意志が弱いから」で片づけてはいけないのか
行動が起きるかどうかを、能力(Capability)・機会(Opportunity)・動機(Motivation)の3つで見る COM-B という枠組みがあります(Michie et al., 2011)。
この枠組みが有用なのは、「続かない」を3つに切り分けられることです。
| 止まっている場所 | 現れ方 | 打つ手 |
|---|---|---|
| 能力 | 何をどの順でやればいいか分からない | 手順を1つに固定する |
| 機会 | 時間・場所・道具がそろわない | 置き場所と環境を変える |
| 動機 | 分かっているのに手が動かない | 最低ラインを下げる/記録して変化を見せる |
「意志が弱い」で片づけると、この3つのどれであっても同じ対処(気合いを入れ直す)をしてしまいます。機会の問題に気合いで対処しても、当然変わりません。
① いつやるかを「引き金」で決める(実行意図)
「毎日やる」は、実行の計画になっていません。 いつ・どこで・何のあとにやるかが決まっていないからです。
代わりに使うのが 実行意図(implementation intention) です。「Xをしたら、Yをする」という形で、状況と行動を先に結びつけておきます(Gollwitzer, 1999)。
- ❌ 毎日30分、英語を勉強する
- ⭕️ 朝、コーヒーを淹れたら、単語アプリを5分やる
- ⭕️ 電車で座ったら、音読の音声を1本聞く
- ⭕️ 歯を磨き終えたら、昨日の英文を1つ音読する
引き金は、自分が毎日ほぼ確実にやっていることから選びます。時間帯(朝7時)より、行動(コーヒーを淹れる)のほうが確実です。時間はずれますが、行動はずれにくいからです。
② 忙しい日の「最低ライン」を先に決める
忙しくない週にはできていたのに、忙しい週に全部消える。続くかどうかを決めているのは、こちらの週です。
だから、ふつうの日の量とは別に、忙しい日の下限を先に決めます。
| 決めておく量 | |
|---|---|
| ふつうの日 | 15分(音読5分+単語10分 など) |
| 忙しい日 | 1分(単語3つ/英文1文の音読/アプリを開くだけ) |
「これなら絶対にできる」と思えるところまで下げてください。 下げすぎに見えるくらいで構いません。ここは成果を出すための量ではなく、ゼロの日を作らないための量です。
ゼロの日が続くと、次に再開するためのエネルギーが跳ね上がります。1分でも触れておくと、その跳ね上がりが起きません。
③ 記録する(ただし、記録が仕事にならない範囲で)
自己モニタリング(記録)は、行動変容技法の一覧のなかでも中核に位置づけられている手法です(Michie et al., 2013)。
英語学習では、次の3つだけで足ります。
- やったかどうか(○×)
- ふつうの量か、最低ラインか
- 気づいたこと(1行。無い日は空欄でよい)
記録が丁寧になるほど続きません。 学習時間の分単位の記録や、細かいスコア管理は、それ自体が新しい負担になります。記録は「続いているかどうかが自分に見える」ために付けるものです。
記録するタイミングは翌日をおすすめします。やった直後に付けようとすると、忙しい日ほど付け忘れます。
④ 環境から「邪魔」を1つ減らす
やる気を上げるより、始めるまでの手数を減らすほうが確実です。
- 教材を開いた状態で机に置いて寝る
- アプリをホーム画面の1ページ目に置く(SNSは2ページ目へ移す)
- イヤホンをカバンから出さない
- 音読する英文を、1つだけ紙に出しておく(選ぶ手間をなくす)
いずれも小さく見えますが、止まるのは**「始めるまで」の手数のところ**です。始めてしまえば15分は進みます。
⑤ 途切れたときの「戻り方」を先に決めておく
途切れることは前提です。 出張、繁忙期、体調。続いている人が特別なのではなく、戻り方を持っているかどうかが違います。
決めておくのは2つだけです。
- 戻る日(「日曜の夜にリセットする」など、曜日で決めておく)
- 戻る量(最低ラインから。いきなり元の量に戻さない)
ここで効くのが、自分で決めたかどうかです。人から与えられた計画より、自分で決めた計画のほうが続く、というのは自己決定理論が扱ってきたところです(Ryan & Deci, 2000)。だから戻り方も、他人の推奨ではなく自分で決めておくほうが機能します。
英語学習に固有の注意
ここまでは学習一般の話ですが、英語には固有の事情が2つあります。
- 伸びが見えにくい — 数か月単位で変化するため、日々の実感が得られません。だから記録は「伸びたか」ではなく「続いたか」を見るものにします
- 使う場面が来るのが突然 — 会議・電話は準備が終わるのを待ってくれません。だから使う場面から逆算して範囲を絞るほうが、続けやすくなります
原因別に、もう少し詳しく
- 大人のやり直し英語は、何から始めるべきか — 止まった原因を4つに分けて、型ごとの最初の一歩を出しています
- 社会人の英語学習|時間がない前提で設計する — 置き場所と最低ラインの決め方を、もっと具体的に
- 30代から英語をやり直す — 条件が変わった年代での組み直し方
正直に書いておくこと
ここに挙げた5つは、続けるための手順であって、英語力の伸ばし方ではありません。続いたからといって、伸びが保証されるわけではありません。
また、引用した研究はいずれも行動変容一般を扱ったもので、「英語学習でこの手順を使うと何か月で何点上がる」という研究ではありません。そこまでは言えません。 言えるのは、続ける形のほうに手を入れる方法には、検証されてきた蓄積がある、ということです。
手順ごとの各論
5つの手順は、それぞれ単独でも詰まります。よく止まるところは別にまとめました。
- 三日坊主で終わるのはなぜか|英語学習で3日目に何が起きているか — 3日目に何が起きているか。意志の問題として扱わない
- 英語のやる気が出ないとき|やる気を待たずに動かす方法 — やる気を待たずに動かす。ただし原因が睡眠や仕事の負荷にある場合は、英語の問題として解けません
- if-thenプランニング(実行意図)の作り方|英語学習での例つき — 手順①の具体化。「いつ・どこで・何を」を先に決めておく形
- 『Atomic Habits』の考え方を英語学習に当てはめる — 一般向けの実践書と、研究側の枠組みの関係も含めて
よくある質問
- Q習慣になるまでどのくらいかかりますか。
- 「21日で習慣になる」といった数字がよく引かれますが、期間は行動の種類と個人差で大きく変わります。日数を目標にするより、忙しい週を1回通過できたかどうかを目安にするほうが実用的です。
- Qやる気が出ない日はどうすればいいですか。
- やる気を待たずに済むように、最低ラインを1分まで下げておきます。やる気は行動の前提ではなく、始めたあとに出てくることのほうが多いためです。1分やって終わりでも、その日は「やった」に数えてください。
- Q何日も空いてしまいました。もう一度最初からですか。
- 最初からにする必要はありません。決めておいた「戻る日」に、最低ラインから再開してください。空いた日数を取り返そうとして量を増やすと、また止まります。
- Qアプリで管理したほうがいいですか。
- 記録が続くならどちらでも構いません。紙でもアプリでも、続かなくなる原因は「記録が丁寧すぎること」のほうです。3項目(やったか/どちらの量か/気づき)を超えたら、減らすことを検討してください。
Author
中川 代表コーチ
Hightouch English/Hightouch株式会社
英語をやり直す大人の学習設計を、行動科学にもとづいて組み立てています。
TOEIC 950点/関東甲信越英語教育学会(KATE)会員/全国英語教育学会(JASELE)会員